About Us

 近年、訪日外国人の増加とともに、日本各地でインバウンド対策の事業が行なわれ、国も誘致に対しての予算を増加させ、「◯◯年目標◯◯万人!」と威勢のいい掛け声が聞こえてきます。ここ、八幡平においても、年々外国人の観光客が増加していることを肌で感じます。

そして冬のアクティビティとしてのスキーは、外国の方からの注目度も高く、日本のパウダー「JAPOW」の評価は高いところとなっています。八幡平も例外にもれず、少しずつ注目を浴びるようになり、ここ数年でさらにその流れが加速しようとしています。

八幡平に多くの方に来てもらうことは本当にありがたいことです。しかし、インバウンド先進地域の現状を鑑みると、確かに訪問客は増え、活気に溢れているように見えますが、決してプラスの側面だけではないという印象が拭えません。外部資本によるインバウンド誘致策が、必ずしも地元住民に幸福をもたらしているとは言えない現状も一方で理解しなければならないと思います。

 

当初、このキャット事業は、どちらかと言えば、インバウンド誘致の旗振り役を期待されスタートした事業であったと思います。スタート時には、リゾートホテル、スキー会社、行政のみで議論が進み、地元のガイドやローカルにはまったく情報がこない。この先、何か悪いことが起こりそうな予感とでもいうべきか・・・・そして案の定・・・・。

そんな中で、徐々に地域のガイドが話し合いを重ね、時には衝突することもありました。ですが、人口減少に歯止めがかからない地方において、インバウンド誘致は受け入れざるをえない選択とするならば、むしろ外部の企業や外国人に主導権を握られる前に、地元のガイド達が知恵を出し合って良いものを作り上げていくべきではないのか?今、我々が動かないと、もしかすると取り返しのつかないことになるのではないか?今が限界点?ティッピングポイント?デッドライン?その様な経緯で、大黒森(旧八幡平スキー場)を維持管理・キャット事業を行うための組織として、2019年12月に地域のガイド9名が出資し、組合法人を立ち上げました。それが大黒森管理協同組合です。

外部のコンサルタントやシンクタンクに事業を丸投げして、失敗した事例は枚挙にいとまがないと思います。こんな片田舎にも能力のある人は、皆さんが思っている以上にいるのです。そんな熱意のある人たちが、本業の傍ら、自分の時間を削って、話し合いを重ね、ローカルや地元の関係者との微妙なバランスを保とうとしているのです。ここに暮らしているからこそ危機感もあり、その責任もあるのです。失敗して逃げ出していった人を沢山見てきました。帰る場所が他所にある人はいいんです。我々にはないんです。

 

ローカルの中には、「何もしないで、これまでどおりの旧八幡平スキー場でよいのではないか?」など、さまざまな思いを持っている方がいると思います。何もしないことも選択肢の1つです。けれど、外部資本に行政が動かされ、知らぬ間に物事が進んでしまうことを我々は目の当たりにしました。そして、10年間放置されたスキー場は、ササとダケカンバ・ヤナギ類が繁茂し、滑れるエリアは年々小さくなっています。森林化は自然の摂理で否定できません。一方で、人が積極的に自然に干渉することは、プラスの側面もあります。環境整備をはじめて、まだ数年ですが、ササに隠れていた高山植物が徐々に息を吹き返しはじめています。春から夏にはさまざまな高山植物があふれ、秋にはススキヶ原が広がり、冬にはバックカントリーエリアになる。そんな場所、素晴らしいじゃないですか?

我々は、このエリアに積極的に関与することで、これまでどおりのエリアが維持されるのではないか?と考えています。

 

大黒森管理協同組合はキャット事業(HACHIMANTAI CAT TOURS)だけではなく、無雪期の環境整備、安全管理も含めた組織です。森林管理署・八幡平市などの行政機関、地元の企業などの多くの方々のご理解・ご協力で成り立っています。地元の理解・協力が得られないことは出来ません。今まさに世の中が大きな転換期を迎え、身の回りのことに無関心でいるわけにはいきません。我々には身の丈にあったやり方で、解決できる順番にプライオリティをつけて、順序立てて問題を解決していくことしか出来ません。事業を進めるにあたっては、関係者にも理解してもらう必要があり、時間も掛かります。そして、この様な複雑な事業は何が正解か分かりにくく、説明も難しいです。もしかしたらもっと良い方法があるのかもしれません。

我々に出来ることは、多くの意見に耳を傾け、議論を繰り返し、問題点をあぶり出し、将来のことも考え、今出来ることを、ただやるだけです。

このキャット運航事業を含めた大黒森管理協同組合の事業は、八幡平のウィンタースポーツの活性化だけでなく、地方が抱える問題の解決策の一つのあり方を示せるのではないかとすら思います。

 

仕事柄、度々外国へ行きますが、観光が全ての人を幸せにするわけではないということを知っておくべきです。とくに、そこに経済格差がある場合。外国人に対して嫌悪感を抱いている人すらいます。なぜ嫌悪されるのでしょう?それは、自国の価値観をそのまま持ち込み、他人の家へ土足で入っていき、敷地を荒らされ、見ず知らずの人にカメラを向けられ、ホテルのベッドメイク、低賃金で働かされ、お金持ちの観光客から横柄な物言いをされ。。。ネガティブな感情ほど持続し、共有されます。八幡平がこんなことになったら、どうなるのでしょう?自分の地域の慣習、そして住民の感情が蔑ろにされて気分の良い人はいるでしょうか?

 

我々の目指すべきは、最大化ではなく最適化です。急激な変化は、人をより不安に駆りたてます。

いきなり蛇口を最大限に開いても、容量の決まったところには決まった量しか入りません。最適に蛇口を開いてやらなければならないのです。急に開けた蛇口を開けすぎたことに気づくのは、容量が小さいほど早く気が付きます。しかし急に蛇口をしめても、溜まった分より相当量はオーバーフローしてしまうのです。

世界を相手にするには八幡平は容量が小さいのです。白馬、ニセコに比べても小さいのです。来訪者の頭数が増えて、それで良し・・・それで良いんでしょうか?

八幡平には、八幡平の適したやり方があるんじゃないでしょうか?

せっかくだから、ローカルもお客さんも日本人も外国人も、皆で気分良く滑りたいじゃないですか?お客さんには、満足して帰ってもらいたいじゃないですか?

受け入れる側の体勢がまだ整っていないのに、蛇口を目一杯開けられても対応し切れません。地元の人たちにネガティブな感情を抱かれては、持続可能な事業にはなりえません。地元の人たちの意思も尊重してください。我々は、急げません。

 

 

お客様へ

最後になりますが、

我々はこの様な考えのもとに事業を行っています。

せっかく遠方から来ていただき、ガイドツアーに参加していただいたのに、ローカルスキーヤーが先に滑っていることがあるかもしれません。必ずファーストトラックを滑れるとも言えません。ただ、このエリアの維持には、この地域に暮らしている多くのローカルの方々の理解・協力があります。どうぞご理解ください。

 

しかし、当組合のガイドは、このエリアを誰よりも熟知しています。

必ずその日の最高の場所へ案内させていただくことと思います。

そして、お客様には、この素晴らしい八幡平の自然と雪を存分に堪能していただけると思います。

 

八幡平で皆様のお越しを心よりお待ちしております!

 

                            2020年10月

                                                     大黒森管理協同組合

                                                     代表理事  鈴木 央司